さて「THIS IS 甄子丹Way to the 葉問4:完結篇」第2回は葉偉信監督作品「導火線/FLASHPOINT」(07 )です。ドニー兄貴の武打星としての長いキャリアにおいて重要な転換期が幾つかあった。最初の転換期が袁和平監督作品「情逢敵手」(85)公開後に1度ボストンに帰り、再び「タイガー刑事」(88)で香港に戻る際にボストンからマイケル・ウッズ、ステファン・バーウィックなど友人である外国人格闘家を招聘しドニー兄貴とのオリジナリティ溢れるクンフーアクションを作り上げた事。2度目の転換期が「SPL狼よ静かに死ね」(05)で呉京やサモハン相手に当時アクション映画界に衝撃の登場を果たしたトニー・ジャーには撮れないクラシカルな香港クンフーアクションに加え、サブミッションを大胆に導入した“MMA猛爆路線”を展開し、新たなる“甄功夫電影”の構築に成功した事だ。そして本作「導火線/FLASHPOINT」こそその“MMA猛爆路線”の最高到達点となった作品である。
悪漢を逮捕するためには手段を選ばない“暴走刑事”馬軍(ドニー兄貴)と麻薬シンジケートを率いる凶悪なベドナム人3兄弟(呂良偉、鄒兆龍、行宇)の激しい闘いを描く本作「導火線」で、まず大きな見せ場が病院に乗り込んで来た3兄弟の3男阿虎(行宇、当時)とエレベーターで乗り合わせた馬軍が狭い密室で繰り広げるスリリングな闘いである。
華生「馬軍、俺も乗せてくれ・・はっ!」
馬軍「・・!」
「ドガァ!」馬軍は相棒で潜入捜査官の華生(古天樂)の表情から背後の清掃員が阿虎である事を見抜くと、電撃のバックキック!「バシュ!バシュ!」サイレンサーから発射される銃弾を避けながら阿虎の手首を締め上げる馬軍!そこに援護に駆け込んで来る婦人警官(実はドニー夫人の妹さん)!だが阿虎の銃弾が婦人警官を射殺!その隙にエレベーターから飛び出る阿虎!その阿虎を追う馬軍!
激しい追撃戦は病院から市街地に移り、阿虎は卑劣にも幼い子供を人質に取り、泣き叫ぶ子供を逆さ吊りにすると追いついた馬軍に絶叫!
阿虎「ポリ公!銃を捨てろ!ガキの頭叩き割るぜ!」
馬軍「阿虎、子供を離せ!」
阿虎「銃が先だぁ!ガキをブッ殺すぞぉ!?」
馬軍「・・分かった!(銃を後方に投げ捨てる)」
阿虎「けっ!そ〜らよぉぉ!」
悪辣な阿虎は子供を道路目掛けて投げ捨てる!頭から地面に落下した子供は顔面を血に染めグッタリと横たわる。その子に駆け寄り泣き叫ぶ母親!
馬軍「!・・」この瞬間!馬軍の怒りの導火線に火が点いた!「くたばれぇ!」馬軍の背後から襲いかかる阿虎!しかしリミッターの外れた馬軍は阿虎の鼻先に怒濤のストレートパンチ!
「ゲフゥ!(痛)」さらに阿虎の背後に回った馬軍は電光石火のジャーマンスープレックスで阿虎の後頭部を地面に叩き着け、この凶悪な3兄弟の末弟を逮捕するのだった。
余談ながら、この馬軍と阿虎のストリートファイトではドニー兄貴が実際に行宇の鼻先にパンチを入れているし、ジャーマンも行宇本人が投げられて地面に叩き着けられている(ドニー兄貴はダブル)。撮影が終わり行宇がドニー兄貴に「ドニーさん、何か俺の鼻曲がってないスか?(汗)」と振ると、ドニー兄貴は「あん?そうか?気になるんなら病院行って来い、病院!」と実にアッサリと答えたとか😅。
だがこの「導火線」最大の見せ場はクライマックスの馬軍vs3兄弟の次男トニー(鄒兆龍)の廃墟を舞台とした壮絶なるサブミッション決闘である。このシーンの撮影前にドニー兄貴は突如「今日のコリンとの対決は李小龍の「猛龍過江」のチャック・ノリス戦を再現する!」と宣言。事実、馬軍とトニーの一騎打ちはひたすら無言でお互いの顔面を殴り合い、関節を取り合い、蹴り合うという“現代のパンクラチオンファイト” となった。馬軍のパンチ&キックと強烈なサブミッション技に徐々に精神的に追い込まれていくトニー。それを軽快なステップを踏みながら睨み着けていた馬軍は荒々しくジャンパーを脱ぎ捨てると咆哮!
馬軍「ここまでだ!トニー!」
馬軍はトニーとの決着を着けるべく、自らの“MMA猛爆”スタイルを全開にすると、猛然とトニーに突進する・・!
このドニー兄貴扮する馬軍と香港クンフー映画史に刻まれる死闘を繰り広げたトニー役の鄒兆龍。敢えて語弊を承知で断言すれば、鄒兆龍自身もアジアからハリウッド進出を果たしながら、結局のところ現時点での鄒兆龍のベストワークを挙げろと言われれば、この「導火線」のドニー兄貴戦と「ターゲットブルー」(95 )の李連杰戦のみなのである(個人的には「HEAT」(98)も加えたい😉)。それは同時に当時から現在に至るまで厳然と続く甄子丹と鄒兆龍の武打星としての大きな差を示していると言っていい。
そしてこの「導火線/FLASHPOINT」で自らの格闘スタイル“MMA猛爆路線”を確立させたドニー兄貴こと甄子丹は、翌年の2008年に第3の転換期を迎える。そう、それが電撃の短打をメインとした詠春功夫と、ストイックかつ深く染み透るようなパフォーマンスの文字通り高い次元での合致への挑戦となった「イップ・マン序章」(08)である。
「葉問4:完結篇」へのカウントダウンまであと2つ!!