フラター「くたばれ!チャイナマン!」
葉問「・・・」
歓声と怒号が飛び交う中、コリン・フラターは猛然と葉問に突進すると正拳突きを連発する!しかし葉問はそれを難なく見切ると、フラターの顔面から首筋に鉄拳を連打! ドカ!ドカ!「ぐうあ!」 衝撃でよろめくフラターの股間に頭を入れた葉問は、そのままフラターの身体ごと大きく持ち上げ転倒させると、怒濤の正拳突きをフラターの頭部に何十発も叩き込む! ダダダダダダダダダダダァァ…!! 「ぐぎゃあああ!」葉問は苦痛に悲鳴を上げる極天空手の使い手の顔面目掛けてさらに強烈な踵落とし!!バキィ! 「うぐあ・・あああ!!」 何とか立ち上がったフラターは辛うじて再び身構えると、葉問を睨みつける! フラター「ユー!・・やるな?」 葉問「・・・」フラター「ウオアアア!」 フラターは再び葉問に突進し左右の正拳突き!葉問はそれを次々受け止めると電撃の短打でフラターのガードを崩し、下からフラターの顎を突き上げる強烈な掌底を連打!ドカ!ドカ!バキィ!「げふう!ぐああ!」血反吐を吐き天を仰ぐフラター! そのガラ空きとなった喉元に葉問の手刀が突き刺さろうとした瞬間!ババッ! フラター「ヒヒィ!?」 葉問「・・」 葉問は自らの手刀がフラターの喉元を突き破る寸前で手刀を寸止めすると、そのままフラターを無言で見据える事で既にお互いの勝負が決した事を伝える。 だが!
フラター「ま、まだだ!ミーはまだ負けてねえ!」 葉問「!・・ハアァ!」
葉問は往生際の悪い空手家の突きをかわすと、もう1度強烈な短打をフラターに叩き込み、その衝撃で身体が浮いたフラターの胸板にトドメの正拳を振り下ろす!ドカッ!バキバキィ! フラター「ぐぎゃああああ!」 フラターの肋骨が折れた音とフラターの悲鳴が擂台に交差し、そこからフラターの巨体が擂台に叩き着けられる! 「ワアァァァァァ!!」その瞬間、中秋節に集った中国人たちは香港から来た詠春拳宗師の勝利を大歓声で称えるのだった!! ハートマン「葉師父!」 若男「葉師父!凄い!やったわ!」 葉問「・・・」
葉問は擂台に駆け上がって来たハートマンが荒い息遣いと共に自分を心から称える視線に静かに頷き、弾ける笑顔で自分に抱きついて来た若男を受け止めながら、傍らで苦痛に呻きながら横たわるコリン・フラターを憐れみの籠もった眼差しで見下ろすのだった。
自分が送り込んだコリン・フラターの敗北を知ったバートン・ゲッデスは病院のベッドに肋骨を折り弱々しく横たわるフラターを見届けると、その強靭な肉体に怒りと憎悪を滾らせながらコブシを握るのだった。 ゲッデス「薄汚いチャイニーズどもが!貴様らのチャイニーズクンフーとやらがフラター1人倒したくらいで、本当に俺たちの無敵カラテより優れていると思っているのか! まあいい。こうなったら俺自身が奴らを八つ裂きにしてやる!」
ここでスコット・アドキンスに触れる。龍熱は「人質奪還 アラブテロVSアメリカ特殊部隊」(03)の頃から今日まで、アドキンスに長年注目して来た。 アドキンスこそが欧米白人系マーシャルアーツ武打星において、ハイレベルにしてトップクラスの香港クンフーアクションに対応出来る殆ど唯一の男である。特にアドキンスが宙に舞い、そこから身体をキリモミさせながら放つ猛スピードの連続後ろ廻し蹴りこそ圧巻にして必見のキッキングアクションである。このアドキンスが自身の代表作「デッドロック」(06〜16)シリーズから生まれたヴォイカを人気キャラとして確立した辺りから、私も含めた多くのクンフー映画ファンがドニー兄貴とアドキンスの対決を熱望して来た。そしてその“残された最後の夢の対決”が遂に本作「イップ・マン完結」で実現する!よくぞ実現してくれた!👍。 言うまでもなく、この葉問vsバートン・ゲッデスの激突こそが「イップ・マン完結」最大のクライマックスである!
狂気にも似た怒りと共に単身行動を開始したゲッデスは中華総会に乗り込み、そこに居合わた中国人武術家たちを鬼神のような空手技で次々と叩きのめす。 そして武術家の1人から萬若男と争い顔に傷をつくった白人女学生ベッキーの父親にしてアメリカ移民局高官が萬宗華を移民局に連行した事を知ると、移民局に乗り込み萬宗華の引き渡しを要求する。 そこに駆けつけた若男が移民局の高官に父親の釈放を涙ながらに哀願し跪こうとするのを見た萬宗華は、 萬宗華「若男!止めろ!私たち中国人は彼らに安易に頭を垂れてはならない! ゲッデス、いいだろう。私も中国人だ。お前と闘うぞ!」 ゲッデス「いい度胸だ。ルール無し、どちらかが倒れるまで闘う。いいな?」 萬宗華「良かろう!」
この基地内にある体育館でのバートン・ゲッデスvs萬宗華の一騎打ちも他のクンフーファイトに負けず劣らず素晴らしい完成度である。 ゲッデスは最初こそ萬宗華の切れ味鋭い太極拳に手こずるが、すぐに萬宗華の間合いとタイミングを見切り、豪快な連続の廻し蹴りから振り下ろすようなストレートパンチで萬宗華を戦闘不能状態にすると、 ゲッデス「貴様と貴様の娘はよ〜く似ているな?特に情けなく頭を下げる姿がな!ドアアアア!」 ハートマン「ああっ!止めろー!」 ドガッ!バキィ!「あぐあああぁ!」 ハートマンの制止を無視したゲッデスの非情な横蹴りが萬宗華の右脚に叩き込まれ、愛国者である太極拳高手の脚は無残にもヘシ折れる!
それを見下ろしながらゲッデスは、周囲に居並ぶ海兵隊員たちに悠然と自分に対する称賛の拍手を強要するのだった。
葉問は萬宗華を見舞いに病院を訪れるが、病室の窓越しに変わり果てた姿でベッドに横たわる萬宗華と、その傍らで悲しみの表情で付きそう若男を悲痛な思いで見届けると、ある固い決意と共にその場から静かに歩み去る。
葉問「阿正か?聞こえるか?爸爸だ。元気か?」 葉正「何だよ?何度も電話なんかして来て!」 葉問「・・・阿正、爸爸は癌なんだ」 葉正「えっ?」 葉問「・・この間は殴ったりして悪かった。許してくれ」
葉正「爸?・・爸!うあああ!」 葉問「・・香港に帰ったらお前に武術を教えよう。約束する」
葉正「爸!いつ・・いつこっちに帰るの?」 葉問「爸爸はこっちでやらなければならない事がある。それが終わったら帰る。元気でいろよ。じゃあ切るぞ?」 葉正「爸!爸!ううああああ!」
最愛の息子との電話を終えた葉問は、高まる悲しみと憤りの鼓動を懸命に抑えながら、いま遠い異国の地で出会った同胞たちの誇りと名誉を守るため、最強を誇るアメリカ人空手家との“最後一戦”に挑む事を決意するのだった!!
葉問「ハートマン、私を米軍基地に連れていってくれ」 ハートマン「葉問!・・は、はい!」 若男「葉師父!待って!」 葉問を追って萬若男が病室から走り出て来る。 葉問「・・若男」 若男「あの軍人は・・ゲッデスは葉師父を殺す気よ!行かないで!」 葉問「・・若男、君はチアリーダーになりたいと言っていたね?」 若男「えっ?」 葉問「私は武術家なんだ。もし悪を前にした時はそれに対し立ち上がり闘う。 私たちはそのために武術を学んで来た。そしてそれが君がチアリーダーになりたいと強く願うと同じように、いまそれが私が何よりも強く望む事なんだ!」 若男「葉師父!」
葉問は涙を浮かべて自分を見つめる若男に穏やかな笑みを返すと、そのままハートマンを伴い病院の廊下を静かに歩み去るのだった。
※ここまで「イップ・マン完結」レビューをお読み下さっている方々へ。ここから先の展開は完全なネタバレになります。もしこれから日本劇場公開が予定されている本作に向けてネタバレを危惧される方は、どうかその点をご留意頂きたく存じます。
ゲッデス「いいか?お前たちがこの偉大な国アメリカで暮らせるのは幸運なのだ!素晴らしく名誉な事なのだ!お前たちの文化や武術など糞だ!我々アメリカの文化、そして俺たちの無敵カラテこそが偉大にして絶対唯一の真実なのだ!分かったなぁ!」
アメリカ海兵隊基地内の体育館。 バートン・ゲッデスは館内に整然と並んだ大勢の海兵隊員に向かって怒号にも似た演説を終えると、満足げに周囲を睥睨する。 ハートマン「おい!この人種差別主義の糞野郎!」 ゲッデス「誰だ!?」 ゲッデスは体育館の入り口から自分が立つ中央の競技スペースに向かって歩いて来るハートマン、そして隣の白の中国服姿の東洋人を睨みつける! ハートマン「私たちの文化こそ文化と呼ぶに相応しいものだ!こちらの方は香港からいらっしゃったマスター・イップ・マンだ。この方が昨晩コリン・フラターを叩きのめしたんだ。そして今からお前も叩きのめされるんだ!」 ゲッデス「・・・ほう?いいだろう!ルール無用だ。どちらかが倒れるまで闘う!いいな?」 葉問「・・・」
実は本作「イップ・マン完結」で、葉問とバートン・ゲッデスが顔を合わせるのはこのクライマックスにおける一騎打ちの只1度だけである。 まさに葉問とゲッデスは、初対面でいきなりお互いの母国の尊厳と名誉を一身に背負った、文字通り命懸けの闘いに挑むのである!
多くの海兵隊員たちが見守る中、ジッと睨み合っていた葉問とゲッデスは、ゲッデスが葉問に向かって猛然と突進する事で闘いの火蓋が切られる! ゲッデスの猛スピードの左右のパンチをかわした葉問はゲッデスの脇腹に蹴りを入れるが、ゲッデスは顔色一つ変えずに葉問を頭ごと抱えると強烈な膝蹴りを葉問の顔面に何度も叩き込む!ドカ!ドカ! 葉問「ぐう・・!」
口元を切った葉問は一瞬後退し、再び身構え態勢を整えようとするが、ゲッデスはジャンプしての連続後ろ廻し蹴りを葉問の顔面に放つ! 葉問はそれを左腕でブロックして防がんとするも、萬若男を救った際に痛めた左腕はゲッデスの強烈な蹴りを防げず、その打撃のダメージはそのまま葉問を著しく消耗させていく・・! 葉問「ぐう・・うう!」
ゲッデス「!・・フフン!」 ゲッデスは葉問が何故か左腕を庇っている事を見抜くと、再び猛然と葉問に突進し右のサイドキックで葉問の左腕を何度も蹴り上げる! 葉問はカウンターでゲッデスの腹部に掌底の連打を叩き込むが、それをガードすらしないゲッデスは葉問を強引に抱え込み、高々と葉問を担ぎ上げるとパワースラムで床に思い切り叩き着ける! ゲッデス「ヌオアアア!」 ダダーン!葉問は床に叩き着けられた際の全身を走る激痛と衝撃で息が止まりそうになるが、そこに間髪を入れずゲッデスの悪魔のような蹴りが襲いかかる!! ドガ!ドガ!ドガ!ドガガ! ゲッデス「それ!それ!そぉおれ!」 葉問「ぐあ!あぐう!あぐぁあ!」
ハートマン「嗚呼!葉師父!」 顔面から腹部からところ構わず蹴りまくられた葉問は顔面を血に染めながらグッタリと床にうずくまっている・・! ゲッデス「クックックッ!これか?この程度か!これが貴様らのチャイニーズクンフーか!笑わせるぜ!イップ・マンとか言ったな?貴様も他の薄汚いチャイニーズと一緒だな?そうさ、お前も黄色い負け犬なんだぁ!」 葉問は薄れそうになる意識の彼方でゲッデスの嘲笑を聞いていたが、やがてユックリと立ち上がると、目の前の狂気と怒りを全身に漲らせたアメリカ軍人に対して毅然と右手のコブシを握り示す! ゲッデス「そうだ!それでいい!さあ!今度こそ息の根を止めてやる!」 葉問「・・・」
その時、ゲッデスと対峙する葉問の表情は、この決して敗北が許されない闘いに勝利するには“これまで自らが信じて来た道を敢えて踏み外し闘うしかない”ことを悟り、また決意した人間のそれだった・・!
ゲッデス「ヌアアアアア!」 葉問は突進して来たゲッデスを真っ向から受け止めると猛然と突きや蹴りをゲッデスの上半身に叩き込む! ゲッデスもそれに応戦し、2人は激しく組み付き合うと、葉問はゲッデスの首を捉えそのまま逆さに捻り前方に投げ飛ばす! ダダーン!!さらに床に仰向けに倒れたゲッデスの後頭部に葉問は怒濤の正拳突きの連打!! ダダダダダダダダダダダダ!!! ハートマン「葉師父!よし!」 ハートマンは葉問がコリン・フラターを圧倒した正拳突きがゲッデスに次々叩き込まれるのを見て、香港詠春拳宗師の勝利を期待する! だが、バートン・ゲッデスはコリン・フラターを遥かに凌ぐ鉄の精神力と強靭な肉体の持ち主だった!! ゲッデス「ウガアアアアア!!」 葉問「はっ!」
葉問の攻めを両腕で頭をガードし耐えていたゲッデスは、一瞬の隙を突き葉問の足を掴み転倒させると、逆に葉問に馬乗りになり嵐のような鉄拳を猛然と振り下ろす! ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ! 懸命にそれを耐え防御する葉問! 葉問はゲッデスの片脚を払うとバランスを崩したゲッデスの顔面に蹴りを叩き込む!それに耐えたゲッデスが今度は仰向けの葉問の腹部を蹴り上げる!
まさに詠春拳対空手、凄まじい死闘!! ゲッデスは葉問に再度蹴りを入れようとするが、それを見た葉問は葉問の片脚を横に蹴り飛ばす!葉問は又裂き状態でバランスを崩したゲッデスの顔面、いや左目を狙いコブシを叩き込む!バキィ! ゲッデス「グワアアアァ!」 その葉問の一撃でゲッデスの左目は無残にも潰れ破壊される! それでも一瞬後退こそしたものの、ゲッデスは憎悪に満ちた眼差しで再び身構えると葉問に迫る! 「カマーン!」 それを見た葉問は一気に勝負を着けんとゲッデスに接近し、ゲッデスの首筋目掛けて連続の手刀を放つ!だがゲッデスはそれを振り払うと葉問に渾身の後ろ廻し蹴り! それは葉問の腹部を直撃!葉問はそのまま数歩後退すると、瞬時に態勢を立て直し、意を決したように再び身構える! バッババッ!もはや・・ここまで! 葉問とゲッデスが咆哮しながら組み合う!葉問はゲッデスが自分の痛めた左腕を掴み、そのまま腕を逆に捻り上げ、非情にも左腕をヘシ折ろうとするのを察知すると、瞬時にゲッデスの急所を蹴り上げる!ベキィ! ゲッデス「アグアア!」 葉問はゲッデスの絶叫を聞きながらも、さらにゲッデスの急所に蹴りを叩き込む!バキィ!
ゲッデス「グエェッ!」 葉問は激痛に叫ぶゲッデスの左腕を捉えると、そこから躊躇なくゲッデスの左腕を万力でヘシ折る!バキィ!ボキィ!! ゲッデス「ウギャアア!アッアァア!」 葉問「!・・」
そして葉問は一瞬の迷いを振り切ると!激痛に立ち尽くすゲッデスの喉元に禁じ手である手刀を叩き込んだ!グサッ!! ゲッデス「グエエェェ!ゲッホ!ゲッホ!グワアァァァ・・!!」 アメリカ海兵隊員最強の空手家バートン・ゲッデスが喉元を押さえながら弱々しく床に崩れ落ち、そのまま悶え苦しむ姿をジッと見ていたハートマンは、深呼吸を一つすると「ゲッデス長官を医務室にお連れしろ!」と隊員に命じる。 そして敗者ゲッデスの傍らに傷だらけの姿で悲しげに立つ葉問、そう、自分たち中国人の名誉と誇りを命懸けで守った英雄に向かって大きく、そして力強く両手を叩き拍手を始める。 パン!パン!パン!パン・・! そのハートマンの拍手を聞いた海兵隊員たちも最初は戸惑いながらも、やがては力強く香港から来た詠春拳宗師に万雷の拍手を贈るのだった・・・。
中華街にある中華総会。その広間では葉問と萬宗華が笑顔で語り合っていた。 葉問の顔は傷だらけであり、萬宗華もまた右脚を負傷していた。 だが2人の間には彼らだけにしか分かり得ない温かい連帯感が漂っていた。 萬宗華「葉師父、遅くなり失礼しました。これが紹介状です」 葉問「萬師父、感激です!」 萬宗華「葉師父とご子息がこちらに移住されるなら我々は心から歓迎します! いつ頃こちらにいらっしゃいますか?」 葉問「実は・・今は柵の向こうの芝生は思っていたより青くなかった。そんな心境なのです」
萬宗華「ああ・・なるほど。いや分かりました。ハッハハ!」 萬若男「葉師父!これ私の大好きなお菓子なんだけどお土産にどうぞ!」 葉問「おお、若男、多謝!」
萬宗華「コイツ?チャッカリした奴だ!ハッハハハ!」
香港。葉問が自宅の玄関の扉を開け入って来る。手には萬若男から渡されたお土産と鞄。アメリカで負った身体中の傷が産む痛みが葉問の顔を僅かに歪ませる。 と、廊下に父親の帰宅を待ち侘びていた葉正が姿を見せる。 葉正「爸!」 葉問「おお、阿正」 葉正は葉問に駆け寄り鞄を受け取ると、優しく、愛おしく父親を見つめる。 その息子の眼差しを眩しそうに、そして嬉しそうに受け止める葉問。 葉正は葉問にピッタリと寄り添いながら、葉問を我が家の奥へと静かに誘うのだった・・。 この父子が共に過ごす時間があとどのくらい残されているのか、それは分からない。だがこれから葉問と葉正が共に過ごす時間が2人の父子にとってかけがえのない日々である事は間違いないだろう。
映画はこの後、葉問が自分が木人椿を打つ姿を葉正に撮影させる感動のエンディングから、1972年に死去した葉問の葬儀に李小龍が駆けつけるシーンで劇終となります。 龍熱が本作「イップ・マン完結」で何より印象的だったのが主人公である葉問の息子に対する深い愛情や同胞に対する熱き友情も勿論ですが、クライマックスで最強無敵の空手家として葉問の前に立ち塞がるバートン・ゲッデスを倒すため武術における“禁じ手”の封印を解く葉問の苦渋の決断でした。 例えどんなに凶悪で悪辣な相手との闘いにあっても、自分がその相手を制圧する一撃が肉体的に致命傷となる一撃であってはならない。
それはこれまでのシリーズ3作品で葉問が頑なに貫いて来た正宗武術家としての崇高なるプライドでもありました。 それが最も分かりやすく描かれているのが「イップ・マン継承」(15)における葉問vsフランク(マイク・タイソン)戦で、葉問が闘いの最後にフランクの下腹部に放った蹴りを寸止めする場面です。 その葉問の武術家としての余りにも気高く美しい戒めが、かつてないほどの強靭な精神と無敵の空手技を誇る最強の敵ゲッデスの凄まじい猛攻の前に遂に破られる時が来ます。 それは葉問がゲッデスの喉元を手刀で突き破り倒した直後の悲しく、そして深い自責の念に満ちた表情からもハッキリ分かりました。 まさにシリーズ完結編に相応しい重厚で悲壮感に満ちた決着シーンでした。 それでも龍熱は改めて言いたい!本作「イップ・マン完結」に登場する葉問vs萬宗華、葉問vsコリン・フラター、バートン・ゲッデスvs萬宗華、そして葉問vsバートン・ゲッデス、その全てのクンフーファイトが素晴らしかった! 個人的には葉問vs萬宗華戦がベストファイトではありますが、ラストの葉問vsゲッデス戦も期待以上の壮絶ファイトで、長年ドニー兄貴とスコット・アドキンスの真っ向勝負を待ち望んだ人間としては大満足でした👍。 ハッキリ言って、この2人の対決があと1、2年遅れていたら、例えそこで実現したとしても意味がなかったでしょう。 よくぞ間に合ってくれた!待ちに待ったドニー兄貴vsアドキンス戦がこの「イップ・マン」シリーズ最終章で観れて良かった!本当に嬉しい!! 改めて龍熱は本作のアクション監督である袁和平に文句なく及第点を進呈したいです。 敢えて言えば、ラストの李小龍が葉問の葬儀に駆けつける場面の前に2人の師弟の交流を描く場面がもう1シーンあったら、と感じましたが、それは良しとしましょう。
最後に今回「超級龍熱」では本作「イップ・マン完結」レビューを本当に久々となる前編&後編の形でお届けしました。 久し振りのロングレビュー形式となったためか、執筆から更新までお時間を頂きました。でもこの前編&後編スペシャルには理由がありました。 いま私たちが人類の敵であるコロナウイルスの脅威に直面する中、映画館での映画観賞もままならない日々が続いています。ならばこの「イップ・マン完結」のレビューで皆さんに元気になって欲しい!己のコブシ一つで悪を挫き、善を救う葉問の雄姿で元気になって欲しい! そしてその皆さんの元気な笑顔を見て私も元気になりたい! そんな想いを込めて今回の「イップ・マン完結」のレビューを書き上げました。願わくば、この“香港詠春拳宗師傅奇系列”最終章を皆さんと一緒に劇場で日本語字幕付きでもう一度観れる日が来る事を心から、そして強く願います。 最後になりましたが、今回「イップ・マン完結」観賞に際してはK.M氏にお世話になりました。ありがとうございました。 Ip Man4 the Finale Part2.