では公約通りに「李小龍的最佳電影〜精武門」スタートです。まず1974年に本作『ドラゴン怒りの鉄拳』(72)が日本劇場公開された際、この映画が近代中国武術界の偉人霍元甲謀殺、いわゆる“霍元甲事件”を題材とした作品である事をシッカリと理解した上で観ていた日本人が果たして何人いたか?
実際、本作『〜怒りの鉄拳』を74年のロードショー公開時に渋谷宝塚で観た龍熱少年も霍元甲どころか、劇中の霍元甲の英語発音(日本では『〜怒りの鉄拳』は英語吹き替え版で公開)“フォ・ユンジャア”も全く気に留めませんでしたしスルー状態でした。
ただ中国人にとって19世紀初頭に上海で起きた“霍元甲事件”は本事件を題材とした武侠小説の多大な影響もあり、当時から中国人なら誰もが知っている事件で、だからこそ『ドラゴン怒りの鉄拳』こと『精武門』はアジア地域で爆発的な大ヒットを達成したわけです。
さて、我々日本人にとっては香港クンフー映画定番の弟子による師匠の敵討ち映画でしかなかった『ドラゴン怒りの鉄拳』ですが、この頃唯一“霍元甲事件”に触れていた日本の文献は、私が知る限り松田隆智先生著「中国武術〜少林拳と太極拳」だけでした。
また龍熱少年の印象では『〜怒りの鉄拳』日本公開時の映画業界も含めた日本人の本作に対するリアクションは“霍元甲事件”どころか、劇中の橋本力さん扮する悪漢鈴木寛の発音や表記を中国語読みのニンムー表記にするとかしないとかも含めて「この映画って日本人が悪役だけど、どう反応すればいいの?」的な部分にだけスポットが当てられていた記憶があります。
その後、私も含めた日本の香港映画ファンが霍元甲を初めとする中国武術界の偉人に本格的に興味を持ち、また真剣にリサーチを始めたのは1990年代中盤に李連杰主演『ワンチャイ天地大乱』(92)が日本劇場公開されてからでしょう。
この『ワンチャイ』シリーズで李連杰が演じた黄飛鴻を深く知る事で、改めて成龍の日本出世作『ドランクモンキー酔拳』(78)の主人公が黄飛鴻だった事に驚いた日本人は少なくないでしょう。
また私自身もそこに至る道程で『ドラゴン覇王拳』(72)で王羽が演じた主人公が実は馬永貞だった事や『ワンチャイ英雄少林拳』(76)で劉家輝が演じた主人公が黄飛鴻だった事実に驚きと共に感銘を受ける事になったわけです。
そして何よりも私たち日本人映画ファンにとって初の“精武門系列”作品となった『ドラゴン怒りの鉄拳』で、李小龍が扮した主人公陳眞が実は架空の人物であった驚きの事実にさらなる衝撃と感銘を受けたのでした。
Bruce Lee as Chen Jen from Fist of Fury and Chen Jen's master Huo Yuanjia.