私は李小龍主演『ドラゴン怒りの鉄拳』(72)を愛弟子陳眞が自らの命を懸けて日本人に謀殺された恩師霍元甲の敵討ちを果たす決死の闘いとして“史上最大の復讐劇”と命名しました。
全編に渡り息詰まるような悲壮感と緊張感に満ちた本作ですが、映画の序盤で観客がそれこそ息を呑み食い入るようにスクリーンを見つめる場面が登場します。
それが厳粛であるべきはずの霍元甲の葬儀に悠然と姿を見せた虹口道場の使者胡恩(魏平澳。快演!) と2人の日本人門弟(陳龍と李超俊)が精武館門徒たちに突き付けた「東亜病夫」なる額縁が登場するシーンです。
陳眞「!!」
ここで皆さんにはもう1度この全ての中国人を侮辱した四文字が大書された額縁を見た瞬間の李小龍扮する陳眞の表情を観て頂きたい。実はこの葬儀のシーンの陳眞は、最初から最後まで一言も言葉を発しません。
慇懃無礼な胡恩に頬を何度も叩かれてもただひたすらその全身に怒りと悲しみを滾らせたまま無言を貫き通します。
この場面の李小龍の表情演技、いわゆる“爆発しそうになる怒りを懸命に堪える”佇まいは何度観ても本当に圧巻です。
日本人が叩き着けた「東亜病夫」の侮辱に耐え、ひたすら内なる怒りの炎を燃やすこの陳眞の姿こそが“表現者”李小龍一世一代の名演でしょう。
この瞬間、怒りと屈辱を懸命に堪えた陳眞とそれを目の当たりにした私たち観客の心は一つになります。
そして偉大な武道家霍元甲の葬儀で「東亜病夫」なる屈辱を叩き着けられた精武館門徒たち、いえ陳眞の怒りと悲しみの姿は、それを映画館で観ていた私たち日本人の心に「例えそれが日本人であろうと中国人であろうと、正義が悪を討つ、それこそが正しい人間の姿なのだ」との熱き思いを強く焼き付けたのでした。
Sick man of Asia!?How dare you!!Most memorable scene from Fist of Fury.