最近、知り合いのある方から韓国製オリジナルVHSを5本ほど頂きました。この方は以前に韓国映画などのレンタル店を経営なさっていたんですが諸事情でお店を閉められていたんですね。で、今回私が頂いた5本全てが70年代の韓国クンフー映画(レンタル落ちながら5本ともコンディション極上!)で、そのどれもが今では韓国現地でも激レア・アイテムとなっている作品ばかりで、もう私としては感激を通り越してひたすら恐縮するばかりでした。
「どうか龍熱さんのお役に立てて頂ければ幸いです!」と5本すべてを無償(!)で譲って下さったSさん、本当にありがとうございました。先日の台湾クンフー映画『人在江湖』もそうですが、こういう友人知人の普段からの協力や助けがあってこそ今の私があるんだ、との思いを改めて強くした龍熱です。本当にありがとうございました。
さて、以前にもチラッと書きましたが、最近日活アクション映画を色々と調べている中、ちょっと唐突ではありますが香港の邵氏兄弟公司に招かれる形で香港映画を撮った日本人監督たち、その日活時代の作品を何本か取り上げてみたいと思います。その第1回は楊樹希こと中平康監督、石原裕次郎&中原早苗主演『紅の翼』(58)です。
映画は某産業会社の社長が白昼殺し屋に射殺され、犯人が幼い子供まで車で轢き逃げして逃走するというショッキングなシーンで幕を開けます。そして本作の主人公である遊覧飛行機の副操縦士石田康二(石原裕次郎)は、飛行場から300キロも離れた八丈島で島の子供が破傷風にかかり至急血清をセスナ機(題名の“紅の翼”はこのセスナの翼が赤い事からだと思われます)で届けるという依頼を買って出ます。同乗者に八丈島生れで母の墓参に帰るのだという大橋一夫という男性(二谷英明)、そして血清を届ける特ダネ記事を書こうと血気盛んな女性記者長沼弓江(中原早苗。私が日活女優の中で一番好きな女優さんです♪)を乗せたセスナ機は勇躍大空へと飛び立ちます。ところが、機内でラジオの社長殺害のニュースを聴いた弓江が大橋こそが犯人の板垣一郎である事を見破ると、それまでの温厚な態度を一変させた板垣は康二に銃を突き付け「八丈島には行かせねえぜ。八丈の西の小島に着陸しろ!そこで仲間の船で香港へ脱出ってわけよ!」と強要します。
ここから狭いセスナ機の機内、そして機体の振動チェックのため不時着した新島で康二、弓江、板垣の3人それぞれの息詰まる駆け引きと人間模様が延々と描かれていきます。しかしその間にも八丈島の少年の容態は刻一刻と悪化していくのでした。
そして夜が明け離陸する際に、一計を案じた康二は板垣をプロペラの前に立たせると瞬時に操縦席の弓江にプロペラを全開で回させ、そのプロペラの凄まじい回転に身体を巻き込まれた板垣はズタズタになり地面に転がります!康二はすぐにセスナ機を離陸させますが、絶命寸前の板垣が放った銃弾が康二の肩を撃ち抜きます!康二は肩からの出血で意識が朦朧とする中、それでも八丈島で自分を待っている少年のため懸命に操縦桿を握り続けます。
弓江「康二さん、無理よ!無理だわ!大島まで引き返して血清を届けて貰いましょう!」
康二「駄目だ!もしそうなったら俺たちを待っている子供はどうなる?俺は行くぜ!」
弓江「そんな・・・だって貴方の命も大事だわ!」
康二「誰の命だって大事さ。人の命は“地球よりも重い”って言葉があるんだぜ!俺は死なない・・・死んでたまるか!」
こうして映画は決死の不時着で八丈島に着陸した康二の手で届けられた血清により無事回復した少年と家族が、傷が癒えた康二と弓江を八丈島の飛行場に見送りに来るシーンでエンディングとなります。
少年は母親(山岡久乃)から「さあ、お前もパイロットさんにちゃんとお礼をお言い!」と何度も諭されますが、少年はモジモジするだけでひたすら俯いています。康二はそんな少年の頭を優しく撫でると「アッハハ!いいんですよ。いや照れちゃうな!」と言い残すと、大破した“紅の翼”を愛おしく見つめた後、迎えのセスナ機に乗り込みます。
やがて康二や弓江を乗せたセスナ機が離陸に備えて滑走路を疾走し始めます。手を振りそれを見送る人たち。と、その時!それまでジッと俯いていた少年は突如康二の乗るセスナ機に向かって走り出し、今まさに離陸せんとするセスナ機と並走すると、力一杯手を振りながら声の限りにこう叫びます!
少年「ありがと!ありがと!ありがとうぉぉ!ありがとうぉぉぉ!」
その少年の姿をセスナ機の窓越しに見た康二も弾けるような笑顔で窓越しに少年に思い切り手を振ると、セスナ機は八丈島を再び飛び立ちます・・・!こうして石田康二が見事成し遂げた崇高で気高き空の男の“命懸けのフライト”を、まるで讃えるかのように佐藤勝の奏でる旋律に乗って石原裕次郎が力強く、また切なく歌い上げる本作の主題歌が流れ、映画は劇終となります・・・!
♪空に心が有るんなら 翼も夢を見るんだぜ 胸に残した虹のかげ 握る輪ッパは俺の命さ 白い雲 青い空 紅の翼 つばさ♪
人の命が余りにも軽々しく扱われ、また無残に奪われる事件が多い昨今ですが、この『紅の翼』は中平康のシャープかつ心温まる演出、そして“昭和が生んだ最大のスター”石原裕次郎演じる1人の勇敢な操縦士が命懸けの飛行に挑む姿を通して、まさに現代に生きる私たちが決して忘れてはいけない「人の命の尊さ、人の命の重さ」をシッカリと思い出させてくれる1本でした。
中平康は香港の邵氏兄弟公司で『特警零零九』(67)、『飛天女郎』(67)、『狂戀時』(68)、『獵人』(69)の4本を撮っていますが、その中平監督の邵氏時代の貴重な関係者の証言が実娘の中平まみ著「ブラックシープ:中平康伝」の中に登場しています。
この同書の文中で大鶴泰広が語る中平監督の邵氏におけるエピソードは決して長くはないのですが、『飛天女郎』や『獵人』の撮影エピソードを中心に張徹や羅維の名前まで登場する大変興味深い証言と言って良いでしょう。
また今回取り上げた『紅の翼』も、1974年に韓国に渡った中平監督自身が申相玉の「申フィルム」で金大煕との共同監督作品『青春不時着』(74)としてリメイクしています。こちらでその『青春不時着』の貴重な韓国現地の広告を観る事が出来ます↓
http://blog.naver.com/PostThumbnailView.nhn?blogId=hcr333&logNo=120132894117&categoryNo=21&parentCategoryNo=
そういえば、中平監督の『泥だらけの純情』(63)も、同じく韓国で申星一主演『裸足の青春』(64)として(無断で)リメイクされていましたっけ。
最後にこの『紅の翼』で女性新聞記者の長沼弓江を可憐に演じた中原早苗さんは、残念ながら先日5月15日に76歳で亡くなりました。巨匠深作欣二監督の奥様でもあった中原早苗さん、まさに日活伝説のトップ女優さんがまた1人鬼籍に入られました。合掌。
「どうか龍熱さんのお役に立てて頂ければ幸いです!」と5本すべてを無償(!)で譲って下さったSさん、本当にありがとうございました。先日の台湾クンフー映画『人在江湖』もそうですが、こういう友人知人の普段からの協力や助けがあってこそ今の私があるんだ、との思いを改めて強くした龍熱です。本当にありがとうございました。
さて、以前にもチラッと書きましたが、最近日活アクション映画を色々と調べている中、ちょっと唐突ではありますが香港の邵氏兄弟公司に招かれる形で香港映画を撮った日本人監督たち、その日活時代の作品を何本か取り上げてみたいと思います。その第1回は楊樹希こと中平康監督、石原裕次郎&中原早苗主演『紅の翼』(58)です。
映画は某産業会社の社長が白昼殺し屋に射殺され、犯人が幼い子供まで車で轢き逃げして逃走するというショッキングなシーンで幕を開けます。そして本作の主人公である遊覧飛行機の副操縦士石田康二(石原裕次郎)は、飛行場から300キロも離れた八丈島で島の子供が破傷風にかかり至急血清をセスナ機(題名の“紅の翼”はこのセスナの翼が赤い事からだと思われます)で届けるという依頼を買って出ます。同乗者に八丈島生れで母の墓参に帰るのだという大橋一夫という男性(二谷英明)、そして血清を届ける特ダネ記事を書こうと血気盛んな女性記者長沼弓江(中原早苗。私が日活女優の中で一番好きな女優さんです♪)を乗せたセスナ機は勇躍大空へと飛び立ちます。ところが、機内でラジオの社長殺害のニュースを聴いた弓江が大橋こそが犯人の板垣一郎である事を見破ると、それまでの温厚な態度を一変させた板垣は康二に銃を突き付け「八丈島には行かせねえぜ。八丈の西の小島に着陸しろ!そこで仲間の船で香港へ脱出ってわけよ!」と強要します。
ここから狭いセスナ機の機内、そして機体の振動チェックのため不時着した新島で康二、弓江、板垣の3人それぞれの息詰まる駆け引きと人間模様が延々と描かれていきます。しかしその間にも八丈島の少年の容態は刻一刻と悪化していくのでした。
そして夜が明け離陸する際に、一計を案じた康二は板垣をプロペラの前に立たせると瞬時に操縦席の弓江にプロペラを全開で回させ、そのプロペラの凄まじい回転に身体を巻き込まれた板垣はズタズタになり地面に転がります!康二はすぐにセスナ機を離陸させますが、絶命寸前の板垣が放った銃弾が康二の肩を撃ち抜きます!康二は肩からの出血で意識が朦朧とする中、それでも八丈島で自分を待っている少年のため懸命に操縦桿を握り続けます。
弓江「康二さん、無理よ!無理だわ!大島まで引き返して血清を届けて貰いましょう!」
康二「駄目だ!もしそうなったら俺たちを待っている子供はどうなる?俺は行くぜ!」
弓江「そんな・・・だって貴方の命も大事だわ!」
康二「誰の命だって大事さ。人の命は“地球よりも重い”って言葉があるんだぜ!俺は死なない・・・死んでたまるか!」
こうして映画は決死の不時着で八丈島に着陸した康二の手で届けられた血清により無事回復した少年と家族が、傷が癒えた康二と弓江を八丈島の飛行場に見送りに来るシーンでエンディングとなります。
少年は母親(山岡久乃)から「さあ、お前もパイロットさんにちゃんとお礼をお言い!」と何度も諭されますが、少年はモジモジするだけでひたすら俯いています。康二はそんな少年の頭を優しく撫でると「アッハハ!いいんですよ。いや照れちゃうな!」と言い残すと、大破した“紅の翼”を愛おしく見つめた後、迎えのセスナ機に乗り込みます。
やがて康二や弓江を乗せたセスナ機が離陸に備えて滑走路を疾走し始めます。手を振りそれを見送る人たち。と、その時!それまでジッと俯いていた少年は突如康二の乗るセスナ機に向かって走り出し、今まさに離陸せんとするセスナ機と並走すると、力一杯手を振りながら声の限りにこう叫びます!
少年「ありがと!ありがと!ありがとうぉぉ!ありがとうぉぉぉ!」
その少年の姿をセスナ機の窓越しに見た康二も弾けるような笑顔で窓越しに少年に思い切り手を振ると、セスナ機は八丈島を再び飛び立ちます・・・!こうして石田康二が見事成し遂げた崇高で気高き空の男の“命懸けのフライト”を、まるで讃えるかのように佐藤勝の奏でる旋律に乗って石原裕次郎が力強く、また切なく歌い上げる本作の主題歌が流れ、映画は劇終となります・・・!
♪空に心が有るんなら 翼も夢を見るんだぜ 胸に残した虹のかげ 握る輪ッパは俺の命さ 白い雲 青い空 紅の翼 つばさ♪
人の命が余りにも軽々しく扱われ、また無残に奪われる事件が多い昨今ですが、この『紅の翼』は中平康のシャープかつ心温まる演出、そして“昭和が生んだ最大のスター”石原裕次郎演じる1人の勇敢な操縦士が命懸けの飛行に挑む姿を通して、まさに現代に生きる私たちが決して忘れてはいけない「人の命の尊さ、人の命の重さ」をシッカリと思い出させてくれる1本でした。
中平康は香港の邵氏兄弟公司で『特警零零九』(67)、『飛天女郎』(67)、『狂戀時』(68)、『獵人』(69)の4本を撮っていますが、その中平監督の邵氏時代の貴重な関係者の証言が実娘の中平まみ著「ブラックシープ:中平康伝」の中に登場しています。
この同書の文中で大鶴泰広が語る中平監督の邵氏におけるエピソードは決して長くはないのですが、『飛天女郎』や『獵人』の撮影エピソードを中心に張徹や羅維の名前まで登場する大変興味深い証言と言って良いでしょう。
また今回取り上げた『紅の翼』も、1974年に韓国に渡った中平監督自身が申相玉の「申フィルム」で金大煕との共同監督作品『青春不時着』(74)としてリメイクしています。こちらでその『青春不時着』の貴重な韓国現地の広告を観る事が出来ます↓
http://blog.naver.com/PostThumbnailView.nhn?blogId=hcr333&logNo=120132894117&categoryNo=21&parentCategoryNo=
そういえば、中平監督の『泥だらけの純情』(63)も、同じく韓国で申星一主演『裸足の青春』(64)として(無断で)リメイクされていましたっけ。
最後にこの『紅の翼』で女性新聞記者の長沼弓江を可憐に演じた中原早苗さんは、残念ながら先日5月15日に76歳で亡くなりました。巨匠深作欣二監督の奥様でもあった中原早苗さん、まさに日活伝説のトップ女優さんがまた1人鬼籍に入られました。合掌。