さて、「“新香港影后”鄧麗欣精選」、その第2弾は杜汶澤監督、倉田保昭共演「空手道」(17)でいきましょう。(何時もながら本作観賞の機会を与えてくれた友人に厚く感謝です)
香港に住む平川真理(鄧麗欣)は空手家で亡くなった父、平川彰(倉田保昭!)が遺した自宅兼空手道場を改装しようとしますが、弁護士から「お父様の遺言で貴方の家の敷地の半分は陳強という男性が相続する事になっています」と知らされ愕然とします。
何故なら陳強(杜汶澤)は、かつて父・彰から空手を喧嘩に使った事で破門され、今ではヤクザ者に成り下がっている男だったからです。
そして真理自身もかつて少女時代に出場した空手の演武大会で演武中にミスを犯して以来、空手を嫌味嫌い、父の彰に向かって「空手なんかもう嫌い!」と吐き捨て空手を捨てた悲しい過去があったのでした・・・。
映画はここまでで約18分、やっとオープニングタイトルとなり、ここで平川彰(倉田さん)が1人野原で威厳に満ちた空手の演武を見せるシーンが登場します。
この敢えてモノクロ映像と共に倉田さんが悠然と素晴らしい型を披露するオープニングを通して、本作「空手道」が上っ面だけの空手映画とは違う、本格的な空手映画である事を観客にシッカリと伝える役目を果たしています。
真理は道場の一番弟子で口の不自由な梁狗こと啞狗(歐錦棠。好演)と共に陳強と対面を果たしますが、心が寂しく荒んだ2人は激しく反発し合い、陳強は「だったら今度のK1の試合でお前が最後までリングに立っていられたら俺の相続権を放棄してやる!」と持ち掛けられます。
それでも頑なに空手を拒絶し続ける真理でしたが、自分が愛するDJの男性が別の女性を愛している事を知り激しく傷ついた真理は、この時初めてもう何も無いはずの自分にたった一つだけ残された物、それが父が遺してくれた空手である事を悟ります。
映画はここから真理、陳強、啞狗の3人によるK1出場に向けた激しい特訓シーンが映し出されるのですが、そこで空手着に袖を通したステフィーちゃんが見せる鋭く華麗な空手の突き、蹴りの冴えは実に見事で、改めて私は殆ど格闘技の経験がなかったステフィーちゃんをよくぞここまで鍛え上げた!と本作「空手道」のスタッフに敬意を表したいですね。
また真理が早朝の香港の街を1人黙々とランニングする姿からは、それまで捨て鉢な人生を送って来た真理が今度こそ空手と真正面から向き合い、真剣に生きようとする、その心の変化を見事に映像として映し出しています。
余談ですが、劇中で陳強がヤクザとの争いで刺客に狙われるシーンで、刺客の1人であのサモ・ハンと激闘を見せた劉家良の弟子マーク・ホートンの実娘シャリーン・ホートンこと何慈恩が出演していますので要チェックです。
そしていよいよ真理がジムのリングを借りる形で開催されるK1の試合に挑む日がやって来ます。このK1マッチは私たち観る側の予想を超えた壮絶な試合となり、相手の女性ファイターの非情な攻めで血ダルマとなった真理は、遂には敵の攻撃で無惨にも顎の骨(!)が外れてしまいます。
「ああ!あぐああ!ぐああああ!」余りの激痛にリング上で悲鳴を上げ泣き叫ぶ真理!!
それを見た啞狗が思わずタオルをリングに投げ込もうとしますが、陳強は「まだだ!まだ真理は負けていない!」とそれを制します。
さあ、果たして真理は父、平川彰が愛し貫いた平川流空手の名誉と誇りを守り、このリングに最後まで立ち続ける事が出来るのか!?
そしてこの凄惨な試合の勝敗の行方は!?
ステフィーちゃんこと鄧麗欣は本作「空手道」で権威ある香港電影評論學會大獎の「最優秀主演女優賞」を受賞しました。
それは同じく同大賞の「最優秀主演男優賞」を「蕩寇風雲」(17)で日本人俳優として受賞された倉田保昭さんの偉業と共に高く評価されるべき快挙です。
私は映画の後半で父の彰が愛し守った道場で、今度は娘の真理が純白の空手着に身を包み、美しく威厳に満ちた空手の型を見せる姿に少女時代の真理が優しく、そして静かに重なるように映し出されるシーンを通して、そこに人種を超えて、さらには国さえも超えて武の道を極めんとする者の崇高な世界を見ました。
恐らく、それは香港電影評論學會の皆さんも私と同じ想いだったのではないでしょうか。
青年監督のチャップマン・トーこと杜汶澤も、この「空手道」公開に至るまで本人も色々と大変な時期があったと思いますが、1本の空手映画として観ても素晴らしい仕上がりの作品だと思います。
映画の終盤でちょっと捻り過ぎな描写があったり、やたらラーメンを食べるシーンが出て来たり(^。^)、ステフィーちゃんの日本語がちょっと変だったりと気になる箇所もありましたが、私はそれでもこの「空手道」が第37回香港電影金像奨で6部門にノミネートされている事は十分に納得出来るのです。
確かにステフィーちゃんこと鄧麗欣を“新香港影后”と呼ぶのはまだ早い気もします。それでも香港女優でありながら、敢えて日本人女性を演じ、敢えて未経験の空手アクションに果敢に挑んだ鄧麗欣、いえ、ステフィーちゃんの逞しくも健気な女優根性に私は心を打たれました。だからこその今回の特別企画「“新香港影后”鄧麗欣精選」だったのです。
さて、「“新香港影后”鄧麗欣精選」如何でしたでしょうか。皆さんに楽しんで頂けたら幸いですし、皆さんにも是非ステフィー・タンこと鄧麗欣の今後の活躍を温かく見守って頂きたいと同時に是非ステフィーちゃんを熱く熱く応援して欲しいと思います。押忍!!